・ある患者さんとのお別れ

11年もの間、診させていただいた患者さんが引越しをするため挨拶にと先日医院に寄ってくださいました。

仕事に打ち込まれている印象の格好良い女性患者さんです。

 

先月診療にてお会いしていたのですが、スキルス性の胃がんステージ4が見つかりもう治療を受けることが難しい状態だと知らされ現在は緩和ケアにて痛みをコントロールしている状態とのこと。

余命は半年と宣告されたため九州の実家に戻り兄弟の近くで最後を迎えることを決めた、とのことでした。

退職や引越し手続きのため一時退院という限られた時間を得た際にまず私たちを思い出し来院したと言ってくださいました。

ちょうど衛生士の時間を確保できたのでクリーニングをさせていただきました。

 

 

不安と痛みを抱える状態でも優しい笑顔でした。

クリーニングが終わり最後にその方から、さようならは寂しいし、また、というのも嘘になってしまうと。

私もどのように声を掛ければ良いのかが分かりませんでしたが互いに、今まで本当にありがとうございましたと自然に言葉が出ていました。

最後に、良い医院と出会えて本当に良かったと言っていただきました。

 

 

私たちはその方の背景も考えて診療に取り組むようにしています。

今回は私たちに挨拶をと言っていただいたことが確かに一番の来院理由だったかもしれません。

ただ、私が同じ立場であれば九州に戻り心配をしてくれている兄弟に私は大丈夫ときれいな歯の笑顔で会いたいと思われているかもしれない。

自身の最後を美しく迎えたい、そう思われているかもしれない。

 

 

体調を気遣いながらクリーニングをしてくれた衛生士も綺麗になったととても喜んでもらえ、患者さんと共に喜ぶことができました。

 

 

これでお会いできるのが最後になるということを信じられませんでしたし、どう言葉をかければ良いのか分かりませんでした。

思い入れのある方ですのでこの別れを本当に寂しく思いますが強い痛みや不安を抱える中笑顔でありがとうと言っていただけたことを、私も担当した上原も生涯忘れません。

 

そのことを今も闘われているこの方に伝えたくこのように形として残すことにしました。

 

担当した衛生士の上原にも診療後に、患者さんを第一に考え、患者さんに思い出してもらえるような歯医者は数少ないと思うのでこのような素敵な歯医者で働けて嬉しく思います、患者さんの記憶に残る衛生士になれるようにこれからも頑張りますと言ってもらいました。

 

衛生士にとってもこのような忘れることができない、ストーリーのある診療を行える機会は限られます。

最後に笑顔を見させていただけたこと、10年もの間診させていただけたこと、そして体調が優れない中、衛生士と共に喜んでいただけたことに感謝しております。

本当に、ありがとうございました。